ミナミバンドウイルカ

天草の海で

ミナミバンドウイルカ=クジラ目(鯨偶蹄目) マイルカ科 バンドウイルカ属
英名:Indian Ocean Bottlenose Dolphin,  Porpoise
学名:tursiops aduncus
生息地:北太平洋西側、オーストラリア付近の南太平洋、インド洋など
食べ物:魚類、イカ、タコ、エビなども食べる
寿命:約30~40年
体長:約2.5m~2.7m
特徴:全体が灰色で腹部は明るい灰色になり黒い斑点がある。
生息状況:ふつう種
別名:海豚
漢字:南半道海豚

自分自身の「名前音」を出すイルカ語


生態
このミナミバンドウイルカはインド洋から西側の太平洋とオーストラリアの熱帯から亜熱帯の沿岸域に生息しており、日本では伊豆諸島、小笠原諸島、天草の海などに多数の個体が棲んでいる。
ミナミバンドウイルカは一昔前までは水族館で見れるバンドウイルカと種類が同じだと思われていたが、2000年に別の種類だと判明された。バンドウイルカとの違いはミナミバンドウイルカはやや小型で成長すると腹部にまだら模様ができる。嘴のような口もバンドウイルカより細長い。そして、背びれの形が三角形に近いようだ。バンドウイルカは沖合を長距離移動しているが、このイルカは沿岸に棲みつく。
このように、違いがかなりありながら、最近まで本当の生態がわかっていなかったイルカである。

主に母イルカたちとその子供たちで形成された10~20頭の「ポット」と言われる群れで生活をしているが、そのポットが集まり多いときでは100頭を超える群れでいることもある。大人のオスは通常単独行動か2~3頭ほどの群れでいることが多いが、短期間だけポットに加わることもある。
餌は小魚が主食になり、その他にもイカ、タコ、エビなど甲殻類も食べる。餌を探すときは「エコ-ロケーション」という反響定位を使うのだが、これは、「メロン」と言われている前頭部にある器官から前方へ「クリック音」と呼ばれている音波を出している。このクリップ音は1秒間に1000回も出しているといい、音が物体にぶつかって返ってきた音波を下あごの部分で拾い、物体の位置や距離、形状を測定することができる特殊能力になる。これにより、餌の位置を把握して狩りを始めるという。この音波は人間には聞こえないほどの小さい鳴音らしい。
その他にも仲間同士でコミュニケーションを取るときに使う「ピー」や「ピュイー」というホイッスル音があり、これは声帯を持っていないイルカだが噴気孔の近くにある6個の「気嚢」(きのう)と呼ばれる穴があり、この穴を使い様々な音声を発しているという。近年の研究ではこの音声は自分自身の「名前音」があり他の個体に対して自分を表現するための音を使っているという。イルカの音は約30種類が判明されており、識別可能な音を使って音声によるコミュニケーションを行っているようだ。水族館などで飼われているイルカでの実験で、一頭のイルカに教えたゲーム内容が別の個体に伝わっていることから言語に相当する伝達手段を持っているという。だが、「イルカ語」としてはまだ確認できてはいない。
イルカはこのコミュニケーションを使い仲間同士で狩りをする。代表的なものは群れで魚の周りを囲い一か所に追い詰めてから狩るという。それと、尻尾で魚を打ち、気絶させてから食べることもある。また、漁船の後を追い、打ち捨てられた魚やエビなどを食べたりもする頭の良い動物になる。
イルカの天敵となるのは主にイタチザメ、ドタブカ、オオジロザメなどの大型のサメになる。サメたちは主にイルカの子どもを狙うのだが、イルカはとても泳ぐのが上手くて早いと昔から言われて「泳ぎの達人」と称されることもあったようだ。通常時速5~11㎞で泳いでいるが、本気になったら時速30~45㎞も出すことが可能であり、そのスピードで天敵に体当たりをして攻撃をする。この反撃によってオオジロザメなどに重傷を負わせ、時には死なせるほどの威力を持っている。ちなみに、時速65㎞の高速船と競って泳いでいるイルカがさらに早く泳いだでいたという目撃情報もあり、これによると瞬間時速70㎞のスピードを出すイルカもいると考えられているようで身体能力がとても高い動物になる。
イルカは人間同様に肺呼吸をする哺乳類になるが、呼吸方法はイルカの頭にある噴気孔を通して呼吸をしている。噴気孔は人間で言うと鼻の部分になり、海面へ出る時は開け、海中へ潜るときは閉めるという開閉の動作ができるようになっている。その他にも水中での猟で必然的に海水が体内に入るがその海水を噴気孔から出す役割がある。
呼吸の周期はおよそ40秒になり、寝る時も泳ぐのを止めずに息継ぎをしながら眠っている。イルカは右脳と左脳を交互に眠らせる「半球睡眠」をすることができる。半球睡眠は左目を閉じた時右脳が眠り、右目を閉じたときは左脳が眠る。これを交互に繰り返し一定方向に回転をしながら睡眠しているらしい。回転方向は北半球のイルカでは反時計回り、南半球のイルカでは時計回りだという。
イルカが海中にいられる時間は通常約5~10分程度といわれ、潜水時は水深100m以上に行くことができる。イルカたちの肺は人間と同じく一杯に酸素を入れて潜行してもすぐに使い切ってしまうのだが、イルカの血液と筋肉にあるたんぱく質、ミオグロビンは酸素と結びつき筋肉中に酸素を溜めることができるという。これにより、深くまで潜水しても息継ぎなしで何十分も海中にいることができるという。そして、酸素が少なくなってくると血液を重要な部分(脳や心臓など)以外には送らなくなり、心臓は水面近くにいる時の半分以下のゆっくりとした鼓動で動くようになる。またイルカの肺は通常100mを超えてくると水圧で押しつぶされるのだが、胸骨や背骨などの結合がとても柔軟にできており、自由に動くことができるので胸郭が傷つくことはないという。これにより、肺を潰すことで空気を気道に送りガス交換がされにくくしている。また浮上時の血中にある気泡は脳に達する前に特殊な網で血液中から除去されているという。この特殊な体が、減圧症や空気栓塞症などにはならないようにできていると言う。ちなみに、空気を含んでいるせいかイルカ達の筋肉は黒っぽい色になっているらしい。

繁殖期は春から夏頃と考えられており、繁殖期になるとオスはメスに寄り添ったり、叩いたり、さすったり、噛んだり、叫んだりという様々な求愛行動をとる。イルカは外見ではオスとメスの違いがあまりよくわからない動物だが、オスイルカの腹側の前後には2本の細長いスリットがあり、この前方のスリットには陰茎が収納され、後方には肛門が収納されている。またメスにはスリットが1つしかなくその中に肛門と膣孔があるという。繁殖期になるとオスのスリットから陰茎が出てきて性別を見分けることができる。
妊娠期間は約12ヵ月になり人間と同じくらいという。出産は浅瀬で行い時には助産婦として他のメスやオスが手伝うことも確認されているらしい。
通常生まれる子どもは1子であり、生まれて来るときは溺れないように尾ひれから生まれる。生まれた子どもはすぐに呼吸を覚えさせるため、母イルカが子どもを下から持ち上げ水面まで上がるのを手伝うという。父イルカは子育てを手伝うことはしないという。
子どもは体長約1mほどである。そして、イルカもまた人間同様で母乳で子どもを育てている。母イルカの乳首は中央のスリット(生殖孔がる)の左右に乳首が収納されたスリットがあり、そこで子どもが授乳を行うようだ。授乳期間およそ12~18ヵ月になり、最長6年間を母イルカと密接に過ごすという。そして、メスは5~12歳ほどで性成熟し、オスは10~12歳ほどと少し遅く性成熟するらしい。

ちなみに、出産時の子どもを下から持ち上げる行動は子どもだけではなく、仲間が弱っているときなどでも起こす行動であり、とても仲間思いの動物だという。
しかもイルカは仲間だけではなく、人間にも好感をもてる行動をしてくれる。
これは、1つの例としてだが、ニュージーランドでダイビングをしていたダイバーたちがホウジロザメに狙われた時、近くにいたイルカたちがダイバーを囲うようにして40分間もサメから守ってくれたという。イルカの本意は当然わからないが、このような例が多く確認されているらしい。ただ、その逆もあり、イルカに殺されそうになった例などもある。これはイルカの遊び心ともいえるが、イルカと泳いでいるダイバーがイルカに掴まれて潜行された例などもあり、ダイビングをやっている人から見ればちょっとゾっとする話だ。



人間と…
イルカは古くから人間と深く関わっており逸話や神話伝説などが伝えられている。キリスト教では一説にイルカは海でおぼれたヨナをを呑みこみ、ヨナの命を救った大きな魚と同一視され救済者の象徴となったという。また、この逸話が元でキリストの死と復活を予示したものと受け取られ、イルカをキリスト自身の象徴とした考えもあったという。ただ、このヨナ書に乗っている大魚はクジラだとする説もまたある。
また、古代ギリシアの7世紀後半頃、琴弾きの歌い手アリオンの命を救ったイルカの伝説が伝わっているという。イタリアの音楽大会で多額の賞金を得たアリオンは故郷へ帰るためにコリントス人の船へ乗った、だが船員たちは金を目当てにアリオンを殺害しようと計画した。これを知ったアリオンは最後に一曲演奏すると自ら海へ飛び込んだという。すると音楽を聴いてやってきたイルカがアリオンを背中に乗せ陸地へと運んだという話があるようだ。この話が広がり、イルカは音楽好きとも伝わり、音楽の神アポロンはイルカの姿をとることがあるようだ。
他には豊饒を表したり、水の象徴としても使われているらしい。
だが、一方ではイルカを捕獲するイルカ猟もあった。古代ギリシアの捕獲猟ではイルカの群れを石を投げたりして岸へ追い詰める猟であったらしい。これは水中で音が大きく伝わること利用した漁法だという。
現在でもイルカ猟が行われている地域が日本を含む一部の地域では行われている。主な理由は食料としてではあるが、漁業に対して害獣としての駆除も行うことがあるようだ。
だが、ブラジル南東部の海に面した町ラグーナでは人間とバンドウイルカで共同でする猟が行われている。これは、バンドウイルカがボラの群れを追いかけ、浅瀬で待つ漁師たちがイルカに自分たちの場所を音を立てて教える。その音を聞いたイルカたちは1頭以上がジャンプして漁師たちに場所を教える、その合図で漁師は網をボラがいる方角へ投げて捕まえるという。まさに人間とイルカの共同作業である。この町の記録によるとこの共同ボラ漁は1847年頃から行われているらしい。
一方、アメリカ軍がイルカを訓練して軍用イルカを利用しているらしく、これは機雷の探索や潜水中の敵の発見が主な任務としているようだ。イラク戦争では実践に投入させたという。
イルカは頭が良く人懐っこい性格を持っているのを逆手に利用しているように見える。これではネコに爆薬を付けて敵地へ向かわせた例と一緒ではないだろうか。まだイルカ猟の方が許せる。訓練するなら人災の救助の訓練だけでいいのでは?戦争だけには利用してほしくない…

近年の研究ではイルカの脳は形や大きさも人間に近いという。厳密に言えば人間より大きい脳だという。だが、脳の大きさは知能が高いという説が昔からあったようだが、烏などの鳥類に関しては脳が小さいのに知能が高いのでこの説は理屈が通らないのである。
ただ、イルカが記号の理解を測る実験では類人猿や人間の言葉を理解したオウム(アレックス)に匹敵するほどの知能があると判明している。ゾウやブタのように鏡に映った自分の姿も認識できることから、普段から何らかの形で自分を認識しているのだという。とても高い知能と愛情がある動物なのだ。
いつか「イルカ語」が本当に解明されたら、人とイルカは本当の意味で共存できる仲間になるかもしれない…

イルカの属名Delphinidae(デルフィヌス)はギリシア語でイルカを示すdelphinに由来する。
英名のドルフィンも同じである。
また英名のporpoise(ポーパス)はラテン語で「ブタのような魚」の意がある。
二つの英名は一般にドルフィンがマイルカ、ポーパスがネズミイルカを示しているらしいが混同もあるという。
中国名では海豚、水猪などがあり、和名のイルカも漢字で書くと海豚となる。
また、和名イルカの音源の由来ははっきりとはわかっていないが、「血の匂いのする魚」と言いこれを略して血臭(ちのか)の音から転じたものと考えられている。
ちなみに、福井県敦賀の地名の元は「血浦」(ちぬら)と言い、鼻に傷を負ったイルカの血の匂いがこの地に立ち込めていたことから由来しているという。




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